家を建てる際、法律を考慮しなければなりません。残念ながら、「取得した土地に何を建てるのも自由」ではなく、建築に関する法律全てを遵守しての建築が求められます。
そんな「遵守しなければならない法律」の一つに日影規制があります。
名称から、日陰に関する法律である点はイメージできるかと思いますが、ここでは日影規制についてより詳しく解説します。
日影規制とは?
日影規制とは建築基準法の一つです。
一年を通して最も影が長くなるとされている冬至の日(12月22日)を基準に、周囲に太陽の光が当たらない状況とならないよう建物の高さを制限するための規制です。
冬至の日の午前8時から午後4時、北海道のみ午後9時から午後3時までの間、一定時間以上影が生まれないための高さに設定しなければなりません。
ただし、規制の高さは場所で異なります。
具体的には第一種低層住居専用地域と第二種低層住居専用地域では、軒の高さ7mを超える建物、または地階を除いた階数が3階建ての建物で、それ以外の地域では建築物の高さが10mを超えるものとなっています。
第一種低層住居専用地域と第二種低層住居専用地域の日影規制のポイントとして「建物の高さ」ではなく、「軒の高さ」である点です。
軒とは、土地面から屋根組までを指すもので、屋根の頂点ではありません。一般的には、3階建ての建物は軒高が7mを超えると考えてよいでしょう。
また、自治体の条例で指定されているケースもあります。
地域により、環境・土地利用状況が異なるからで、時間と制限に関しては「3h-2h/4m」と表記されます。
「5h-3h」の部分は敷地境界線から5~10mの範囲では3時間、10mを超える部分では2時間まで、地盤面から4mであることを表した数式です。
この点に関しても用途地域によって異なります。
用途地域 | 規制される建築物 | 規制される日影時間 | ||
敷地境界線から5~10m | 敷地境界線から10m超 | 測定水平面 | ||
第一種低層住居専用
第二種低層住居専用 |
軒高7m超
地上3階以上 |
3時間 | 2時間 |
1.5m |
4時間 | 2.5時間 | |||
5時間 | 3時間 | |||
第一種中高層住居専用
第二種中高層住居専用 |
10m超 |
3時間 | 2時間 |
4m |
4時間 | 2.5時間 | |||
5時間 | 3時間 |
6.5m |
||
第一種住居地域 |
4時間 |
2.5時間 |
||
第二種住居地域 | ||||
準住居地域 | ||||
近隣商業地域 | ||||
準工業地域 | 5時間 | 3時間 |
まとめると上記の表となります。
上記からも分かるように、用途地域だけでも様々な種類があり、かつそれぞれにおいて細かく条件が異なっているため、取得予定地のこれらの情報のチェックも不可欠です。
ただし、敷地境界線から5~10mの範囲の時間に関しては各地方公共団体の条例にて定められているため、建設予定の土地を管轄するエリアの自治体の条例をチェックしておきましょう。
日影規制の注意点
日影規制とは周囲への配慮をルールにしたものです。
マイホーム建築にあたっては、規制の中身を知るだけではなく、具体的に注意すべき点も把握しておきましょう。
エリアによって異なる
お伝えしたように、日影規制はエリアによって数値・時間が微妙に異なるものです。
日影規制の「周囲への日陰を考慮するもの」という大枠はどのエリアでも同様ですが、具体的な数値・時間はそれぞれエリアによって異なります。そのため、日影規制の存在を知るだけではなく、建築予定地の日影規制の具体的数値まで把握する必要があります。
敷地内は複数の建物があっても「1つ」
同じ敷地内に複数の建物がある場合、「1つの建物」となります。
例えば高さ10m超の建物が既に建設されている敷地内に10m未満の建物を建てるとします。この場合、仮に10m未満の建物「だけ」を建築する場合は日影規制の影響を受けることはありませんが、既に10m超の建物が建設されているため、10m未満の建物ではあっても日影規制の対象となります。
一般家庭の場合、同じ敷地に別の建物を建てるケースは滅多にありませんが、このような日影規制の特性も把握しておきましょう。
隣接する地域の影響を受けるケースがある
建物の土地は日影規制がない土地でも、隣接する敷地が日影規制の対象の場合、影が落ちる地域の日影規制が適用されるケースがあります。
そのため、日影規制を考慮する際には自らが購入を予定している土地だけではなく、その周辺の土地の状況も正確に把握する必要があります。隣ではあっても用途地域が異なるケースもあります。
購入後ではなく、購入前に確認しておきましょう。
日影規制が緩和されるケースもある
日影規制は、周囲への日照影響を考慮したものです。
そのため、道路、河川など水面と接している場合や、隣地との高低差が1m以上ある場合など、「隣家」そのものがない場合、あるいは影響が低い場合には緩和されるケースがあります。
他にも規制時間を過ぎても日影となる部分が少ない・周囲に迷惑を与えていない場合なども同様で、このようなケースでは特例として緩和対象となるケースがあります。
一軒家は2階建てまでであればさほど意識する必要はない
日影規制についてお伝えしましたが、端的に、2階建ての一軒家であれば規制にかかる可能性はほぼありません。そのため、どのエリアにおいても2階建てまでであれば、日影規制を考慮する必要はありません。
ただし3階建てとなれば話は別です。地上3階以上の場合は第一種低層住居専用・第二種低層住居専用地域でも、日影規制の対象となります。
世の中に2階建ての家屋と比較して3階建ての家屋が少ないのはこの点の影響があるとの指摘もあります。
日影規制を考慮しなければならない条件
日影規制には条件があります。
裏を返せば、条件に抵触しない限りは日影規制を考慮する必要はありません。
そこで、日影規制を考慮する必要のないケースを紹介します。
2階建ての一軒家
先程お伝えしましたが、2階建ての一軒家の場合、軒高が7mを超える可能性はほぼありません。また、第一種低層住居専用・第二種低層住居専用以外では10m超となるため、こちらも2階建てであれば抵触する可能性はほぼありません。
地下階を設定する一軒家
日影規制とは、あくまでも日影を規制するための物です。そのため、地下に関しては影響がありません。
極論ですが、どれだけ地下室を深く掘って設定しても、地上の日影に影響を与えるものではないので問題ありません。
ただし地下室をつくることに適していない土地では地下室の設定はできません。具体的には地面の真下に水脈がある場合や、新しい道路ができる計画がある土地です。
第一種低層住居専用・第二種低層住居専用以外に建てる一軒家
軒高が7m以下と定められているのは、第一種低層住居専用・第二種低層住居専用のみです。それ以外の用途地域では、10m超です。そのため、第一種低層住居専用・第二種低層住居専用以外では、一軒家であれば日影規制の影響を受けることはほぼありません。一軒家単体で10mを超える高さとなるケースは考えにくいからです。
日影規制だけじゃない!その他の日影や日照に関する制限
北側斜線制限
北側斜線制限とは日影規制とはまた別の、採光を確保するための制限です。
北側斜線制限は採光だけではなく、通風の確保も視野に入れたもので、。第一種、第二種低層住居専用地域・中高層住居専用地域に儲けられているものです。
北側の隣人の日当たりを考慮したもので、南からの日照確保のための建築物の高さ規制です。
南向きにすることで日当たりは良好となりますが、自家の南に家ができてしまった場合、日当たりに影響をきたします。
そこで生まれたのが北側斜線制限です。
北側隣地境界線上に一定の高さを取り、一定の勾配で記された「北側斜線」の範囲内にて建築物を建てなければならない制限です。
隣地斜線制限
日影規制同様、隣人の日照や採光・通風などを保つための建築物の高さを規制したものです。
考え方としては北側斜線制限と似ており、隣地境界線上に取った一定の高さから勾配で記された線である「隣地斜線」の範囲内に建物を建てるルールです。
ただし第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域では高さ制限が設けられているため、隣地斜線制限は適用されません。
上記以外の地域における規制法の一種となります。
絶対高さ制限
第1種低層住居専用地域や第2種低層住居専用地域にて設定されている建築物の高さの上限設定です。都市計画により、10mか12mのいずれかが設定されています。
容積率に関係なく上記数字以上の建物を建てることはできません。
数値からも分かるように、一軒家の建築ではさほど意識する必要のない規制です。
また、建物の敷地の周囲に広い公園や道路、空き地や学校などがある場合、例外的に緩和措置を受けることができます。
道路斜線制限
道路斜線制限とは、道路に面する建物の一定部分の高さ制限です。
道路の反対側の境界線をA地点と定め、一定の勾配で土地に向かって引いた線です。
住居系地域では1:1.25、商業系・工業系地域では1:1.5の直角三角形の角度が道路斜線制限のラインです。
ただし、前面道路の反対側の境界線から適用距離を超える部分は道路斜線制限を受けません。つまり、同じ土地ではあっても道路斜線制限を受ける部分と受けない部分があります。
こちらは高さではなく道路からの距離と角度の問題なので、道路に面している一軒家であれば考慮しなければならない制限です。
日影規制の調べ方
実際に家を建てるにあたって、日影規制の調査は不可欠です。
そこで、日影規制の調べ方をいくつか紹介します。
webで検索する
購入を希望する土地と日影規制をキーワードに、検索をかける方法があります。
例えば東京都世田谷区でマイホームをと考えている場合「東京都世田谷区 日影規制」で検索をかけると、キーワードの自治体の日影規制に関する情報が表示されます。
自治体の正しい情報を時間・場所を問わずに確認できます。
役所の建築指導課で尋ねる
市区町村役所の建築指導課・建築審査課の窓口で直接訪ねる方法もあります。
直接訪ねる場合、足を運ばなければならないものの、疑問をその場でぶつけることができます。
webで検索をかける場合、生じた疑問もすべて自分自身で検索をかけなければなりませんが、窓口であればその場で質問し、返事がもらえます。日影規制そのものがよく分からない場合には、こちらの方法が向いています。
不動産業者に尋ねる
購入する土地を取り扱っている不動産業者も日影規制を把握しているはずなので、問い合わせることができます。
ただし、不動産業者に関しては業者によって対応が異なるだけではなく、同じ業者でも担当者次第です。
日影規制を含め、各種法律・規制・制限に精通している担当者であれば返事も早く。正確です。
しかしまだまだ不慣れなスタッフだったり、法的知識が浅い担当者の場合、曖昧な答えが返ってくる可能性もあります。
日影規制のよくある質問
ここでは日影規制について、よくある質問をいくつか紹介します。
Q.日影規制に違反した場合の罰則は?
日影規制に違反していることが露呈した場合、私法上の損害賠償請求や建築工事の差し止めを受ける可能性があります。受忍限度を超えるかが争点となるものなので、例えば違反していたとしても隣家が空白であれば誰も被害を受けないので損害賠償請求や工事差止めを受ける可能性はありません。
Q.日影規制と天空率の違いは?
日影規制とは日照への配慮のための規制です。一方、天空率とは建築物を天空に投影し、平面上に正射影した際の園の面積に対する空の面積です。U=(A2π-S)/(A2π)×100[%]の公式で表すことができるもので、あくまでも「率」を出すもので、高さ制限適合建築物の0.02%以上上回ることが求められています。
Q.日影規制はなぜ地域によって異なるの?
日影規制は近隣住民の快適な生活のためのもので、「快適な生活」の土壌となる土地環境がそれぞれ自治体によって異なるからです。
日影規制についてのまとめ
日影規制について様々な角度から紹介しました。
2階建てまでのマイホームを検討している場合、さほど意識する必要はありませんが、日影規制の特徴程度は把握しておきましょう。
一方、3階建て以上のマイホームを検討している場合には日影規制の理解は必須です。
そのため、まずは2階建てか3階建てか、どちらを建てるのかをある程度イメージしておきましょう。