日本は世界的に見ても災害の多い国で、直近の平成28年(2016年)以降に限っても、熊本地震や大阪府北部地震、胆振東部地震、福島沖地震など多数発生しています。
そして、2024年1月1日には能登半島で大規模な地震が発生し、多くの家屋が倒壊しました。
平成21年(2009年)から長期優良住宅の認定制度がはじまり、劣化対策や高い耐震性、省エネルギー性能などを持つ優良住宅を認定する制度が始まっています。
安心して住める住宅の基準の一つである長期優良住宅とはどのようなものなのでしょうか。
今回は制度の概要や認定基準、メリット、注意点などについてわかりやすく解説します。
目次
長期優良住宅認定制度とは
平成21年にスタートした長期優良住宅の認定制度ですが、いったいどのような制度なのでしょうか。
誕生までの歴史と認定実績について解説します。
長期優良住宅認定制度の誕生
制度誕生の背景には日本の住宅の寿命の短さがあります。
国土交通省が出した資料によれば、日本の住宅の利用時間はわずか30年で、アメリカの55年、イギリスの77年と比べるとかなり短いことがわかります。
出典:国土交通省「長持ち住宅の手引き」
その理由として、先ほどの資料では以下の点を指摘しています。
・国民の新築志向
・生活水準の向上による住宅更新
しかし、これまでのような右肩上がりの経済成長が頭打ちになっていることから、住宅は作って壊すものではなく長持ちさせるのが一般的となるでしょう。
その考え方に従ってつくられた制度が長期優良住宅認定制度です。
これまでの認定実績
平成21年に始まった認定制度は徐々に認知度が広まり、認定される住宅も増加の一途をたどっています。
始まった年に約56,000戸だった認定住宅は令和3年(2021年)には累計で135万戸を突破しました。
毎年10万戸程度認定されており、新築住宅の4戸に1戸が長期優良住宅の認定を取得している計算となります。
長期優良住宅の認定基準
長期優良住宅として認定されるにはどのような基準を満たさなければならないのでしょうか。
最初に主な5つの認定基準を取り上げます。
1.長期に使用するための構造及び設備を有していること
2.居住環境等への配慮を行っていること
3.一定面積以上の住戸面積を有していること
4.維持保全の期間、方法を定めていること
5.自然災害への配慮を行っていること
出典:国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要について」
認定を受けるためには、1〜5の全ての基準を満たす措置を講じて必要書類を担当する行政庁に申請しなければなりません。
上記の基準をさらに詳細に見てみましょう。
劣化対策
1つ目の基準は劣化対策に関するものです。
長期間使用する住宅は必ず経年劣化していくため、どのように劣化を軽減するかが重要な課題となります。
住宅の骨格部分である構造躯体(柱・梁・主要な壁)の劣化対策を評価する基準に「劣化対策等級」があります。
この等級は等級1〜3に分かれており、等級が高くなるほど耐用期間が長くなります。
等級1 | 建築基準法にで定めた対策を施している |
等級2 | 通常の自然条件や維持管理で2世代(50~60年間)は大規模な改修を行わずに済む対策を施している |
等級3 | 通常の自然条件や維持管理で3世代(75~90年間)は大規模な改修を行わずに済む対策を施している |
参考:住宅性能評価・表示協会「平成30年度 建設住宅性能 評価書(新築)データ 一戸建ての場合」
木造住宅の場合、木材の腐食やシロアリ被害を軽減する対策や通気・換気の工夫、高い耐久力を持つ木材の使用の有無などが評価基準となります。
耐震性
2つ目の基準は耐震性に関するものです。
地震が多い日本において最も重要な基準といっても過言ではないのが耐震性です。
劣化等級と同じく、耐震性にも3段階の等級が設けられています。
等級1 | 建築基準法に定められている耐震性能を満たす |
等級2 | 等級1の1.25倍までの力に耐えられる |
等級3 | 等級1の1.5倍までの力に耐えられる |
耐震等級1の段階で数百年に一度の大地震で倒壊せず数十年に一度の地震で損傷しない程度の耐震性を有しています。
しかし、耐震等級1では倒壊は免れるものの、建物は損傷してしまいます。
長期優良住宅として認定されるには耐震等級1で一定の基準を満たすか、耐震等級2以上の品質が求められます。
参考:国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要について」
最低でも耐震等級2以上の住宅が必要と認識するとよいでしょう。
省エネルギー性
3つ目の基準は省エネルギー性能に関するものです。
省エネルギー性を示す指標は断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級の2つです。
断熱等性能等級は品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に寄ってもうけられた基準で、住宅の断熱性能の高さをあらわしています。
2022年4月には等級5、同年10月には等級6と7が新設され現在は7段階となっています。
等級5はZEHの基準の断熱基準と同等であり、等級6と7は冷暖房にかかる一次エネルギー消費量をかなり抑制できるとされています。
もう一つの基準である一次エネルギー消費量等級は2013年に新設された基準で、住宅が一年間に消費する一次エネルギーの量をあらわしています。
長期優良住宅の認定基準を満たすには、断熱等性能等級が5以上で一次エネルギー消費量等級が6以上でなければなりません。
維持管理・更新の容易性
4つ目の基準は建物の維持管理や更新の容易さに関するものです。
建物本体に比べ配管(給排水管やガス管など)などは寿命が短いため建物を長期間利用するには、設備の点検・清掃・補修・更新が必要です。
維持管理対策等級は全部で3つの等級に分かれており、長期優良住宅に認定されるには等級3以上でなければなりません。
居住環境
5つ目の基準は居住環境に関するものです。
長期優良住宅には周辺の景観にマッチしていることや地域の居住環境の維持・向上に配慮したものでなければなりません。
居住環境の基準を満たしているかどうかは申請先の行政機関に確認しましょう。
維持保全計画
6つ目の基準は建物の維持保全計画に関するものです。
住宅を長期間維持・管理するには長期的なメンテナンスが必要であり、そのための計画を立案しなければなりません。
維持補修計画の策定が義務付けられているのは以下の3点です。
・住宅の構造躯体
・雨水の侵入を防ぐ部分
・給排水設備
構造躯体とは建物の基本となる基礎や柱・梁・壁・床などのことで、これらの部分は建物に加わる力を支える役目を負っています。
屋根や外壁・雨どい・軒裏など雨水の侵入を防ぐ部分についても点検が必要です。
もちろん、建物本体より耐用年数が短い給排水設備もチェックの対象です。
災害配慮
7つ目の基準は自然災害に対する配慮です。
住宅に関する自然災害といえば地震に関することを思い浮かべると思いますが、それ以外にも自然災害は存在します。
長期優良住宅に認定されるには、自然災害の発生リスクに応じた対策を講じることが求められます。
どのような対策が必要かについては、申請を出す行政機関に確認が必要です。
長期優良住宅のメリット
長期優良住宅は、さまざまな基準をクリアした優良住宅であることがわかりました。
ここからは、長期優良住宅を建設するメリットについて解説します。
安全で快適な生活ができる
長期優良住宅は安全で快適な暮らしができる住宅です。
安全に関しては、劣化等級や耐震性の高さを上げることができます。
長期間にわたって使用しても劣化しにくい対策が施され、大地震にも耐えられる耐震等級3の住宅は安心感があります。
【熊本地震の住宅被害についての調査】
出典:国土交通省「「熊本地震における建築物被害の原因 分析を行う委員会」報告書のポイント」
耐震等級1で倒壊に至った建物は全体に2.3%、大破したのが4%あったのに対して、等級3の建物は倒壊・大破した建物はありません。
それだけではなく、無被害だった建物が全体の87.5%を占めました。
2024年の能登半島での大地震の調査により、さらに体制性能が厳しくなる可能性はありますが、現段階で等級3はかなり信頼してよいでしょう。
ただし、立地する地盤によっては等級3でも倒壊する可能性があるため地盤選びは慎重に行いましょう。
快適性能については、断熱等性能等級が参考になります。
等級が高くなればなるほど、住宅の熱が逃げにくい家となるため、夏は涼しく冬は暖かい住宅となり快適に過ごしやすくなります。
等級が高い長期優良住宅はかなり過ごしやすい家だといえるでしょう。
補助金が得られる
補助金を活用できるのも大きなメリットです。
国が実施する「地域型住宅グリーン化事業」により、地域の中小工務店などに住宅建設を依頼すると、1戸あたり最大140万円の補助金が得られます。
どの事業者が対象となるかについては、地域型住宅グリーン化事業評価事務局にお問合せください。
住宅ローン金利が引き下げられる
住宅ローン金利の引き下げというメリットもあります。
代表的な長期固定金利の住宅ローンであるフラット35のフラット35 S(金利Aプラン)や維持保全型の場合、当初5年間の金利が年0.5%引き下げられ、6年目から10年目の金利が年0.25%引き下げられます。
長期優良住宅専用のローンであるフラット50 Sの適用が受けられるというメリットもあります。
フラット50は最長50年間の全期間で固定金利が適用され、住宅ローンが付いた状態でも売却できるという特徴があります。
税制面の優遇を受けられる
税制面でも一般住宅よりも優遇されます。
2024年3月31日までに新築された住宅について、以下の優遇措置が受けられます。
1.登録免許税の引き下げ
2.不動産取得税の控除額増加
3.固定資産税の減免措置の適用期間延長
登録免許税の税率は以下のように引き下げられます。
引き下げ前 | 引き下げ後 | |
保存登記 | 0.15% | 0.10% |
移転登記 | 0.30% | 0.20% |
0.30% | 0.10% |
出典:国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要について」
不動産取得税の控除額は1,200万円から1,300万円に増額され、課税所得を減らせます。
固定資産税の減免適用期間は以下のようになります。
通常 | 延長後 | |
戸建て | 1~3年間 | 1~5年間 |
マンション | 1~5年間 | 1~7年間 |
出典:国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要について」
地震保険料が割引される
地震保険料には耐震等級割引や免震建築物割引があります。
割引名 | 等級・条件 | 割引率 |
耐震等級割引 | 耐震等級2 | 30% |
耐震等級3 | 50% | |
免震建築物割引 | 免震建築物である | 50% |
適用の詳細については地震保険を扱う各損保会社や代理店などにお問合せください。
長期優良住宅の注意点
長期優良住宅は住宅資産を保全し、住宅の寿命を延ばす制度であるため住宅の資産価値を向上させてくれるというメリットがあります。
その一方、注意しなければならない点もあります。
時間や手間がかかる
1つ目の注意点は申請に時間と手間がかかることです。
申請書は住宅についての専門知識を有していなければ作成困難であるため、書類作成や申請代行をプロに依頼するのが一般的です。
一般的には着工前に工務店や住宅会社が申請を行いますが、書類作成などの手数料が必要で、ある程度の時間がかかります。
建築費が高くなる可能性がある
2つ目の注意点は建築費が高くなる可能性があることです。
一般的な住宅と比べ、長期優良住宅は高品質であるがゆえに手間や工賃が高くなります。
構造部材や住宅設備も一般住宅よりも高品質なものを選ぶため、コストが高くなってしまうのです。
住宅を資産として長期間保有することを前提とするなら、初期費用が高くても品質が良い住宅を検討したほうが良いかもしれません。
メンテナンス履歴を残さなければならない
3つ目の注意点はメンテナンス履歴を保存しなければならない点です。
認定条件の一つに維持保全計画の策定がありますが、これにもとづき入居後も定期点検やメンテナンスを実行しなければなりません。
住宅の維持保全が必要な期間は30年以上であり、点検時期の間隔は10年以内と定められています。
また、地震や台風などの際には臨時点検を実施し、住宅の劣化に応じた対策をしなければなりません。
長期優良住宅の認定手続きの流れ
長期優良住宅として認められるための一連の流れを紹介します。
技術的審査を受ける
最初に行うのは登録住宅性能機関による技術的審査を受けることです。
登録住宅性能機関とは、品確法にもとづき国土交通大臣の登録を受けて住宅性能評価をする期間のことです。
登録している機関は住宅性能評価・表示協会のサイトで調べることができます。
審査を受ける際は以下の書類が必要です。
・設計住宅性能評価申請書または確認申請書
・設計内容説明書
・各種図面
・計算書
これらの必要書類は建築主である工務店やハウスメーカーがそろえて申請時に提出します。
確認書などの交付を受ける
書類の申請を受け付けた登録住宅性能機関は、技術的な審査を実施し住宅が基準を満たしていると判断すると確認書等を交付します。
適合審査を受ける
確認書交付後、それらの書類をもって所轄の行政庁に赴き認定申請書と添付書類を提出します。
認定通知の交付を受ける
所轄行政庁の審査に合格すると、認定通知が交付されます。
認定通知書が交付された後で工事を着工するのが一般的ですが、着工前に長期優良住宅の申請を出していれば、認定通知書の交付前に着工し、そのあとで認定を受けることも可能です。
まとめ
今回は長期優良住宅の概要や認定基準、メリット・注意点などについて解説しました。
住宅は一生に一度の大きな買い物ですが、それだけに長期にわたって価値を維持する良い住宅に住みたいものです。
長期優良住宅は資産価値が高い住宅の目安となるものですので、注文住宅を建てる際や中古で購入する際の目安として活用できるのではないでしょうか。