アスベストが人体に与える影響とは??

石綿(アスベスト)の危険性が大きく叫ばれて約20年ほどになりますが、築40年を過ぎた古い建物は全国に250万棟以上あり、アスベスト問題のピークはこれからやってきます。

ここではアスベストの特徴やアスベストによる病気の種類、アスベストが使われているかどうかの確認方法などをご紹介します。

 

石綿(アスベスト)とは?

そもそも石綿(アスベスト)とはどのようなものなのでしょうか?

日本では石綿(せきめん・いしわた)と呼ばれる鉱物の一種がアスベストです。

この鉱物は繊維状であり、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィラソイト石綿、トレモライト石綿、アクチノライト石綿の6種類があります。

一般的に石綿といわれて使われてきたのはクリソタイルで、使われた石綿の9割がこの素材でした。

他の繊維状鉱物と比べても安価で加工しやすく工業用品に広く使われています。

その特徴は熱や摩擦に強く、酸・アルカリにも強い耐性を示すため、さまざまな材料に強度を付与できました。

ただ、高い利便性とは裏腹に人体に強い影響を与えることがわかってからは製造・使用が禁止になりました。

 

石綿(アスベスト)の歴史

石綿(アスベスト)は自然界に存在する天然鉱物で、人類に使われてきた歴史は古く紀元前2000年前のイタリアで発見されました。

古代ローマ時代にはランプの芯の素材に使われたことがわかっており、日本でもエレキテルの発明で有名な平賀源内が秩父山で発見したアスベストから「火浣布」を織り、幕府に献上した歴史があります。

18世紀に産業革命がイギリスで起こると技術革新が進み、19世紀にイタリアやカナダで発見された白石綿を皮切りに一気にアスベスト利用が進みます。

日本では1887年からアスベストの輸入が始まり、軍事利用されました。

建材として使われたピークは1970年代で、2005年にアスベスト問題が大きく取り上げられた事例により2006年に製造から使用までが禁止されました。

 

日本で石綿(アスベスト)に対して設けられている規制

日本での石綿(アスベスト)を規制する元となった法律制定は1960年のじん肺法に遡ります。

1950年代後半にけい肺(シリカの粉塵吸入による肺の疾患)による健康被害がきっかけとなりじん肺法が制定されたあとに石綿の健康被害救済が始まりました。

1968年には大気汚染防止法が制定されアスベストを含む化学物質の大気汚染が規制されます。

1971年には特定化学物質等障害予防規則が制定、その翌年には労働安全衛生法が制定されアスベスト被害者への健康診断の負担軽減などを定めました。

その後1975年に特定化学物質等障害予防規則が改正され比重の重いアスベストの吹付作業が規制されました。

1995年の安全衛生施行令の改正で発がん性の高いアモサイト・クロシドライトの輸入、製造、使用等が禁止されることとなります。

2004年には石綿を含む製品10品目の製造が禁止されました。

2005年には石綿障害予防規則が制定され、建物の解体などの作業の際にばく露を防止するための規定が作られました。

2006年には2004年の改正よりさらに改正されすべてのアスベスト製品が製造から使用まで禁止となります。

 

石綿(アスベスト)が危険とされている理由

それでは石綿(アスベスト)を人が吸い込むとどう危険なのでしょうか?

繊維状のアスベストは目に見えないほど大変細かく、一度空中に浮遊すると長時間浮遊し人の肺に入り込むと肺の奥深くの細胞に沈着します。

肺に蓄積されたアスベストは肺を傷つけ続け炎症を起こします。

炎症し続けると人体はその細胞自体がガン化してしまうケースがあるため注意が必要です。

またアスベストはそのものが発がん性を有しています。

クロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)よりもクリソタイル(白石綿)のほうが発がん性はやや弱いとされていますが、そのためにがんを発症するケースがあります。

また、ガン以外にも発症する病気があるのです。

恐ろしいのはどの程度の毒性の石綿(アスベスト)をどの程度の量で吸い込むことで発症するのかわかっていないことです。

また発症までの潜伏期間が大変長いため気が付かないままでいる方も多いでしょう。

 

石綿(アスベスト)が原因として起こる健康被害

石綿(アスベスト)を吸い込み続けると初めは咳が続いたり熱が出たりといった症状が出てきますがそれだけでは終わりません。

それでは石綿(アスベスト)を吸い込むことでなる病気はどのようなものがあるのでしょうか?

ここではその種類と症状、潜伏期間などを病気ごとにご紹介します。

 

石綿(アスベスト)肺

石綿(アスベスト)が原因でなる病気の1つが石綿(アスベスト)肺です。

アスベストを吸い込むことで肺の細胞が線維化してしまう病気です。

さまざまな化学物質が体のなかに入ってくることを「ばく露」と言いますが、石綿(アスベスト)がばく露すると起きる病気を他とは区別して「石綿肺」と呼びます。

職業上アスベストを長期間吸い込んでいてなったケースが多く、潜伏期間が15~20年ほどです。

息切れや運動能力の低下などが自覚症状であり、胸部X線検査などや職業上アスベストに関わっていたかどうかなどで診断されます。

 

肺がん

肺がんは肺の細胞がさまざまな原因でガン化する病気ですが、長期間の石綿(アスベスト)のばく露でも発症リスクを高めてしまいます。

厚生労働省では「アスベストが肺がんを引き起こすメカニズムが十分解明されていない」とされていますが、繊維状のアスベストが肺の細胞内で物理的に影響していると考えられています。

またアスベストのばく露にあっている人が喫煙すると肺がんを発症するリスクをさらに高めてしまうため注意が必要です。

潜伏期間は個人差などもあり15〜40年とされています。

 

悪性中皮腫

内臓はそれぞれを覆う膜に守られています。

それらをさらに包み込むのが中皮ですが、その中皮に悪性腫瘍ができるのが悪性中皮腫です。

内臓それぞれを覆う上皮の悪性腫瘍は「ガン」と呼ばれますが、それを踏まえると悪性中脾腫は中皮にできる「ガン」のことです。

潜伏期間は20〜50年で、厚生労働省によると若いときにアスベストを吸い込んだ人のほうが悪性中皮腫になりやすいことがわかっています。

 

びまん性胸膜肥厚

さまざまな病気による胸膜炎や放射線治療により発症するケースがあるびまん性胸膜肥厚も石綿(アスベスト)が原因でなる可能性がある病気の1つです。

その特徴は肺を包み込んでいる胸膜が線維化して分厚くなることにあります。

肺が十分膨らんで空気を取り込む動きを阻害するため息切れを起こします。

肺の細胞が分厚く硬くなり悪化すると自力で痰が出せなくなり、酸素吸入が必要になることもあるでしょう。

根本からの治療が難しく、対処療法でしか治療ができません。

 

石綿(アスベスト)にばく露する機会

石綿(アスベスト)は2006年に製造から使用までが禁止されましたが、それまでにさまざまな場面で使われていたためばく露する機会がこれからも存在します。

それではこれからどのような場面でばく露する機会があるのでしょうか?

職業的にアスベストを含む材料を取り扱っていた方はばく露の可能性があります。

具体的には建設現場や車両工場、鉱山や工場などです。

また、その仕事で来ていた作業着などを自宅で洗濯していた場合、洗濯物を通して家族の方も吸い込んでいる可能性があります。

また、築40年を超える住宅には少なからず建築材料に含まれている可能性があるため、老朽化してアスベストが飛散していないか確認しなければなりません。

最近では古い家を自分でリフォームするのが流行っています。

こういった際にもアスベストが住宅に使われていないかを確認してからでなければご自身だけでなく、作業を手伝う方や近隣住民の方にも迷惑がかかることになります。

 

石綿(アスベスト)が使用されているか確認する方法

アスベストによる病気にならないためには、日常的に吸い込んだりしないように自分の身の回りから遠ざけることが重要です。

ここからは身近にあるかもしれないアスベストを確認する方法をいくつかご紹介します。

 

建築年月日から調べる

アスベストは2006年までは製造・使用されていましたが、築年数が20年以上前のものはどこかに使われている可能性があるため家を立てたときの資料を調べるなどの必要があります。

年代ごとにおもにどのような建材に使われていたかの特徴があります。

1975年頃までのものならば吹きつけタイプのアスベストで耐火・断熱・防音に関する建築素材におもに使われました。

75~95年までの期間では壁・天井の断熱工法にも使用されており、55~89年頃まではアスベストを使った床タイルも建材として使われていました。

こういった目安をもとに建材などは確認できます。

 

目視で確認

インターネット上では映像付きでアスベスト入りの建材が紹介されているものもあります。

それらの情報をもとに目視での確認もできます。

ただ、一般人にはわかりにくいものもあるため確実性には欠けるところが難点です。

破損や劣化が確認できた場合、吸い込む危険もあるため備えた状態で目視しましょう。

おもに石綿(アスベスト)を使用した建材は下地調整塗材(フィラー)、金属製サイディング、繊維強化セメント板などがあります。

製造年月日と合わせて調べるとより確認しやすくなるでしょう。

 

専門業者に調査を依頼

ご自宅にアスベストが使われているかどうかを専門家に依頼し調査も可能です。

設計図書と目視による調査内容があり、その内容は3年間の保存が定められています。

ただ、令和5年から現地調査するにはアスベストに関して一定の知識を有する者がおこなう必要があると定められています。

特定建築物石綿含有建材調査者、一般建築物石綿含有建材調査者、一戸建て等石綿含有建材調査者がその対象となるため、調査を依頼する際には参考にしてください。

 

石綿(アスベスト)が関与する病気に対する補償制度

心配なのは石綿(アスベスト)を意図せず吸入し、疾患を患った場合その病気に対して補償がされるのかどうかや、どこが補償もとになるのかなどです。

ここではアスベスト関連による病気の保証制度とその帰属先について4つ紹介します。

 

労災保険

石綿(アスベスト)を職務上取り扱っていてばく露し、かつ労災保険に加入していた場合は、労働基準監督署に申請すると労災保険で給付金が受けられる可能性があります。

給付対象の疾患は石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水などです。

また、付随する病気でも認められるケースもあります。

疾患になった際に労災保険に加入していたことが条件になるため、長期でアスベストの取り扱い会社で働いていたとしても保険加入がないと給付は受けられません。

 

石綿健康被害救済給付金

労災保険でアスベストに関する救済を得られない場合は、こちらの給付を受けられる可能性があります。

石綿(アスベスト)を取り扱う会社に従事し、労災保険に加入していたが長い潜伏期間のために請求期間外になってしまった場合や、そもそも労災保険に加入していなかった場合などです。

職場以外でのばく露の場合もこの法律で救済される可能性があります。

たとえばアスベストを取り扱っていた会社に勤務していた人の家族、アスベストを取り扱っていた工場の近隣に住んでいた人などです。

いずれの場合も独立行政法人環境再生保全機構からの認定を受ける必要があります。

 

国からの賠償金(工場型)

2014年に出た最高裁での判決によりアスベストを取り扱っていた会社でばく露した労働者に対する国の責任が認められ賠償判決が出ており訴訟により賠償金を受け取れる可能性があります。

ただし、その対象となる方は以下のとおりです。

まず1958年5月26日~1971年4月28日までの局所排気装置を設置すべき石綿(アスベスト)を使用していた工場に勤務していてアスベスト粉じんばく露作業に従事していた人です。

次にその結果アスベストによる健康被害にあった人となります。

そして提訴の時期が損害賠償請求権の期間内である人が対象です。

 

国からの給付金(建設型)

建設業で石綿(アスベスト)を含む建材などを取り扱っていた建設現場に従事していた作業員やその遺族の方が給付金を受け取れる制度が2021年に作られました。

こちらは訴訟を起こすことなく給付金を受け取れますが、認定される必要がある事と3つの項目の全対象であることが条件となります。

過去にアスベストを含む建材を取り扱った建設業務にあたっていたこと、石綿関連疾病(5つのいずれか)にかかった人、労働者やひとり親方等であることです。

また請求期限内に請求する必要があります。

こちらの給付金については労働基準監督署などへの問い合わせや請求期限に関しての相談を弁護事務所などへするほうがスムーズにいきます。

 

まとめ

まとめ

石綿(アスベスト)による健康被害はそれぞれの疾病の潜伏期間の長さのために本人も気が付かないうちに進行し、救済が受けられるはずの期限を外れてしまっているケースも多々あります。

これまでにアスベストに関しての救済措置が漏れのないようにいくつも設けられましたが、いずれの場合でもご自分の請求期限が切れていないことが大切です。

少しでもアスベストに関しての健康被害の疑いがある場合は調べてみることをおすすめします。

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