伝統的な日本家屋である和風住宅には独特の魅力やよさがあります。
風情溢れる和風住宅は時代とともに変化し続けてきました。
洋風な住宅が増える中、和風住宅も根強い人気があります。
和風住宅にはどのような特徴やよさが備わっているのでしょうか。
本記事では和風住宅の歴史と特徴、和風住宅ならではのよさについてわかりやすく解説します。
目次
和風住宅の歴史
和風住宅は日本の歴史とともに大きく変化してきました。
ここでは和風住宅がどのようなものか、和風住宅が歩んだ歴史、和洋折衷で生み出された和モダンについて解説します。
和風住宅とは
和風住宅には明確な定義はありませんが、内装や外観が日本風とみなされる住宅を和風住宅としています。
住宅に床の間や障子・襖といった「和」の要素が多ければ多いほど和風住宅の印象が強まるといえます。
古くからある和風住宅だけではなく、洋風との折衷タイプである和モダンの住宅も和風住宅として扱われることがあります。
本記事では和モダンの住宅も和風住宅として紹介します。
和風住宅の歴史
和風住宅の歴史を簡単に振り返ります。
時代 | 建築様式 | 特徴 |
平安時代 | 寝殿造り | 貴族の邸宅に用いられた建築様式
上品で繊細なデザインが特徴 |
室町時代 | 書院造 | 書院を中心とした建築様式
ふすまや障子で部屋を区切る 畳や床の間ができる 格式などの要素を重視 |
安土桃山時代 | 数寄屋造り | 茶室の要素を取り入れた建築様式
格式をできるだけ排除した簡素なつくり |
江戸時代 | 長屋・町家 | 長屋は1つの建物に複数の住人が住む集合住宅
町家は独立して建てられた一軒家 町家は宿場町や京都に残されている |
貴族や武士といった限られた階層だけのものだった和風住宅は、江戸時代以降は庶民の住宅としても発展していきました。
現代の住宅に大きな影響を及ぼしているのは室町時代の書院造で、ふすま・障子・畳・床の間などの要素は現代にも引き継がれています。
和洋折衷の和モダンとは
和モダンとは伝統的な和風住宅に現代の洋風住宅の要素を取り入れた新しい建築様式のことです。
内装に障子や畳、ふすまといった要素を取り入れることで住宅の和風要素が強まります。
木や竹、和紙といった日本で古くから用いられている自然素材を取り込むことで和風の印象を強めることができます。
建築工法の面でも一般的な洋風建築と異なります。
和モダンの住宅では洋風住宅で用いられる木造枠組壁工法ではなく、木造軸組工法(在来工法)という和風住宅で古くから用いられた伝統工法を用います。
和風住宅の特徴
和風住宅には洋風住宅と異なる特徴がいくつもあります。
主な違いは以下のとおりです。
・独特の玄関
・畳の上でくつろぐ
・障子や襖で部屋を区切る
・土間がある
・床の間で美しさを演出
・開放的な縁側
・重厚な屋根瓦
和風住宅独特の特徴について詳しく見てみましょう。
独特の玄関
一般的な住宅の玄関と比べ和風住宅の玄関は広めに作られます。
その理由は和風住宅の玄関の戸は引き戸を用いることが多いからです。
洋風住宅の玄関が130〜180cm程度であるのと比べると和風住宅の玄関は210〜270cmと洋風住宅の2〜3倍ほどです。
間口が広いことで見栄えがします。
また、引き戸には木材とガラスが用いられますが、曇りガラスを使用するとプライバシーを守りつつ太陽の光を取り込めるため明るい玄関になるでしょう。
複層ガラスを用いると断熱性が高まるため冬の寒さを緩和できます。
畳の上でくつろぐ
畳は和風住宅を象徴する存在です。
畳の原料はい草やわらで作られているため吸湿性や放湿性に優れているため、夏は涼しく冬は暖かく過ごせます。
畳1枚で500mlの水分を吸収できるともいわれており、湿気の多い日本の生活に適しています。
他にも畳には断熱効果や遮音効果、リラックス効果があるとされています。
畳表に使われるい草は一本ずつ空気を含んでいて床下からくる冷気を遮断してくれるため、冬でも畳は冷たくなりにくいのです。
クッション性能に優れているのも畳の長所です。
子どもやペットが走り回っても畳が音を吸収してくれるため、騒音をかなり抑えることができるでしょう。
畳は独特の香りを放ちますが、この香りには「フィトンチッド」が含まれています。
フィトンチッドは植物が自分の身を守るために発する物質で、殺菌効果や防腐効果があります。
フィトンチッドは自律神経を整え、精神的にリラックスさせてくれます。
障子や襖で部屋を区切る
壁を使わず障子やふしまで部屋を仕切るのは和風住宅ならではの特徴です。
日本の建物では古くから部屋と部屋を隔てる仕切りとしてふすまや障子が利用されてきました。
平安時代の寝殿造りは仕切のない大部屋であったため、個人のプライベートを守るために几帳や御簾、屏風などを用いていました。
現代の和風住宅では壁が多く用いられていますが、ふすまや障子などの簡易的な間仕切りも健在です。
ふすまや障子は簡単に取り外せるため、部屋の大きさや使い方をフレキシブルに変更できます。
土間がある
かつての和風住宅では伝統的に土間が用いられていました。
土間とは屋内でありながら床板が張られておらず土足で歩けるスペースのことです。
古い和風住宅には必ずと言ってよいほど土間が設けられ、屋根がある庭として農作業場や台所として使用されてきました。
現代では自転車やバイクなどを置くガレージとして使用したり、子どもたちを遊ばせる場所や洗濯物を干す場所として活用できるでしょう。
また、自動車のタイヤなど屋外で雨ざらしにしたくないものを保管する場としても利用できます。
しかし、土間を設けると居住スペースが狭くなったり冬場に家が冷えやすくなるので注意が必要です。
床の間で美しさを演出
和風住宅の美しさを際立たせるのが床の間です。
床の間は和室に設けられる床のある部分のことで、室町時代から用いられるようになりました。
当初は仏像・仏具などを置く場として利用されたともいわれていますが、時代が下ると掛け軸や花などを飾る場所となりました。
昔からの使い方と同じく掛け軸・生け花を飾る場所として利用してもよいですが、自分の趣味のスペースとして活用することもできます。
自分の好きな和風小物を飾る場所として床の間を使うのも良いかもしれません。
開放的な縁側
縁側とは部屋の延長線上につき出した板張りの通路のような部分のことで、和風住宅でよくみられるものです。
少し古い映画を見ると、南向きの大きめの窓の外にある縁側に腰かけて庭を眺めるシーンが見られます。
昔から縁側は家族団らんの場として親しまれてきました。
高齢の方が猫をなでながら近所の方と一緒にお茶を飲むなど、コミュニケーションの場としても活用されました。
縁側には以下のメリットがあります。
・夏の厳しい日差しを遮る(南側の場合)
・風通しを良くする
・部屋が広く見える
・コミュニケーションの場として機能する
・庭を眺める場として活用できる
縁側を作ると夏の強い日差しが直接屋内に入ることを防げるため、直射日光の影響をやわらげられます。
開放分が大きくなるため風通しが良くなるほか、奥行きが出るため部屋を広く見せる効果が期待できます。
重厚な屋根瓦
重厚な屋根瓦も和風住宅ならではの魅力です。
屋根瓦は住宅の耐久性を高めるため古くから使用されてきました。
経年劣化に強く、耐久性や断熱性にも優れていることに加え、外観の美しさという点でも人気があります。
屋根瓦には粘土瓦・セメント瓦・コンクリート瓦などの種類があります。
近年主流となっているスレート系やガルバリウム系の屋根に比べると重厚感があり、見た目が美しいという特徴があります。
和風住宅のよさ
近年、生活様式の大きな変化により和風住宅が減りつつあるという話を耳にします。しかし、和風住宅は単に「古い」だけではなく独特のよさを持った住宅です。和風住宅のよさは以下の4点です。
・高い調湿機能
・風情のある内観
・自由度が高い間取り
・耐久性能が高い屋根瓦
それぞれの項目を掘り下げ、和風住宅ならではのよさを探ります。
高い調湿機能
和風住宅には畳や塗り壁など調湿性が高いものが取り入れられています。
先ほども述べたように、畳は空気中の水分をかなり吸い取ってくれるため、部屋の湿度を下げてくれます。
梅雨時などのじめじめした時期、畳はその調湿機能をいかんなく発揮してくれます。
畳が湿度が高い日に吸い取った水分は晴れた日に換気をすることで空気中に放出されます。
部屋の湿度が低いときは畳から出る水分が部屋の湿度を上げるため、過度な乾燥を防ぎます。
ただし、畳の上にカーペットなどを敷いてしまうとい草の呼吸が妨げられ、畳がダニや壁の住み家となってしまうので注意しましょう。
和風住宅に用いられる漆喰や珪藻土の塗り壁にも高い調湿機能があります。
漆喰とは石灰石を焼いて水を加えた消石灰を主原料とする塗料です。
漆喰は湿度が高い状態の時に水分を吸い、湿度が低くなると水分を吐き出すという性質があるため湿度調整の機能に優れています。
珪藻土とは珪藻(けいそう)という植物性プランクトンの化石で、細かい穴が無数に空いている多孔質の素材です。
珪藻土単体では固まらずに粉上になってしまうため、他の物質と混ぜて壁土として使用します。
混ぜる素材によっては調湿機能が発揮できないことがあるため成分に注意しましょう。
風情のある内観
和風住宅の魅力の一つに風情のあるデザインがあります。
床の間や書院のデザインは心が落ち着くものであり、和風の雰囲気が好きな方に好まれます。
縁側でゆったりと時間を過ごせるのも和風住宅ならではの魅力といってよいでしょう。
自宅にいながら風や緑を感じられる和風住宅は、自然との調和を重視する日本伝統の考え方に寄り添ったものです。
木目や木の質感を活用したデザインを取り入れやすいのも和風住宅の特徴です。
伝統的な日本の家屋ではあえて柱や梁が見えるように仕上げる「現し」を取り入れることで、木の風合いを感じやすくなるでしょう。
利便性を重視するのであれば洋風建築の要素を取り入れた和モダンの住宅を検討してもよいでしょう。
たとえば、天井のデザインとして照明周りに折上天井を取り入れたり、天井材として草や木を編み込んだ網代天井を取り入れると普通の住宅にはない味わいが出ます。
庭との調和も和風住宅の特色です。庭から縁側にかけての空間を借景とし、奥行きのある庭の風景を楽しめるのも伝統的な家屋ならではの魅力です。
自由度が高い間取り
間取りの自由度の高さも和風住宅の特徴です。
もともと、伝統的な日本家屋は大きな部屋を建具などを使って簡易的に仕切る形が一般的でした。
大部屋を区切って使うため、用途によって可変的に使用できるというメリットがあります。
現代の和風住宅でもライフステージに応じて柔軟に部屋の間取りを変えやすいというメリットが生きています。
大部屋として使用したいときはふすまや障子を取り外し、細かく区切りたいときは再び取り付けるといった対応がしやすいのです。
ただし、通常の部屋の間仕切りと比べると遮音性が低いため音が筒抜けになってしまいますので、その点を考慮して間取りを決めましょう。
耐久性・断熱性・遮音性が高い屋根瓦を使用
屋根瓦については、その見た目から重さや地震に対する弱さなどをイメージする方もいらっしゃると思います。
確かに、屋根瓦は決して軽いものではないため重さについては間違いありませんが、だからといって地震に弱いというわけではありません。
屋根瓦を用いるメリットは以下のとおりです。
・耐久性能が高い
・遮熱性や遮音性が高い
屋根瓦は抜群の耐久性を持ちメンテナンスの手間があまりかかりません。
そのため、経年劣化にかなり強いといえます。
遮熱性や遮音性という点でも優れています。
その理由は、瓦と屋根の下地の間に空気の層があり、断熱材としての役割を果たしているからです。
また、瓦は雨音なども良く吸収してくれます。
大地震で屋根瓦が落ちているのは、旧来の工法で設置されたものがほとんどです。
また、屋根瓦の重さについても建物本体に十分な耐震性能があれば地震の揺れに耐えられるとされています。
まとめ
今回は和風住宅の特徴について解説してきました。
昔に比べるとだいぶ数が少なくなった和風住宅ですが、最近は洋風建築との折衷で生まれた和モダンなども登場しており、従来よりも見直されつつあると感じます。
畳や障子、ふすまといった日本ならではの風情を生活に取り入れたいのであれば和風住宅を検討してもよいでしょう。
加えて、和風住宅には高い調湿機能や自由度が高い間取りなど良い点もたくさんあります。
検討する際には、今回の記事を参考にしていただければと思います。