最近、太陽光パネルを見かける機会が増えているかもしれません。
現在、太陽光パネルの普及率は全ての戸建住宅の10%に達しています。
それでも、まだまだ設置できる住宅が残っているため、今後も増加する可能性があります。
太陽光パネルを設置することで、私たちはどのようなメリットを得られるのでしょうか。
同時に、設置する前に何に気を付けるべきなのでしょうか。
今回は戸建住宅に太陽光パネルを設置するメリットや太陽光発電の現状について徹底解説します。
目次
太陽光発電の現状
戸建住宅に太陽光発電パネルを設置するメリット・デメリットについて考える前に、太陽光発電の現状について整理します。
太陽光パネル増加の経緯
現在、世界各地で太陽光発電の導入が盛んにおこなわれています。
太陽光発電協会が経済産業省に提出した資料によると、2022年に世界で新規に導入された太陽光発電の導入量は240GWでした。
これは、日本の最大電力需要の1.5倍に相当します。
出典:太陽光発電協会
日本の住宅用(10kWh未満)太陽光発電の累積導入件数は2020年の段階で2,817,670件です。
10年前の2010年の累積導入件数が747,102件だったことを踏まえると、この10年で約3.7倍に増加したことがわかります。
出典:太陽光発電協会
太陽光発電が急速に普及した理由の1つは、国が電力の固定価格買取制度(FIT制度)を実施したからです。
FIT制度とは太陽光など再生可能エネルギーによって作られた電力を、電力会社が10年間、一定価格で買い取ることを定めた制度です。
これにより、戸建住宅などで太陽光発電システムを設置する動きが加速しました。
売電価格の低下
導入件数が急増した背景にはFIT制度の開始があります。
FIT制度が始まった2011年の太陽光発電由来の電力買取価格は42円でした。
この年、前年に比べ太陽光発電の導入件数が23万5千件ほど増加しました。
翌年の2012年には約42万7千件も設置数が増加します。
出典:太陽光発電協会
その後、FIT制度の電力買取価格は年々低下し、直近の2023年度の買取価格は16円でした。導入当初に比べ売電価格が4割以下にまで落ち込んでいます。
FIT制度の期限が切れた卒FIT設備の場合、買取価格はさらに低くなります。
売電を目的とした太陽光パネルの設置はあまり大きなメリットといえなくなりました。
自家発電・自家消費に注目
現在、太陽光発電は自家発電・自家消費の設備として注目を集めています。
再注目された理由は電力価格の高騰です。
2022年始めから電力価格の急上昇が始まりました。
2022年4月に1kWhあたり29.6円だった自由料金価格が年末には39円を突破します。
わずか半年の間に、電気代が平均で1.5倍になったことを意味します。
電力価格の上昇は自由料金だけにとどまらず、規制料金にも及びました。
参考:資源エネルギー庁
電力価格高騰の原因は、円安とエネルギー資源価格の値上がりでした。
為替や国際情勢の変化が原因であるため、個人での対策には限界があります。
そこで、電力を自給できる太陽光発電に注目が集まりました。
生活防衛の観点からも、太陽光パネルを設置して電力を自給することに注目が集まっているのです。
太陽光発電の初期費用
太陽光発電システムを設置するには、どのくらいの費用が必要なのでしょうか。
資源エネルギー庁の「太陽光発電について」によると、2022年の住宅用太陽光発電の設置費用は1kWhあたり28万円です。
内訳を見ると、
・工事費 7.1万円
・パネル費用 14.5万円
・パワーコンディショナー(パワコン) 4.2万円
・架台 2.1万円
・その他 0.2万円
ここから1.9万円値引きされ、平均価格は1kWhあたり26.1万円となります。
平均値の内訳をみると、太陽光パネルの費用が43%、工事費が約31%を占めます。
出典:資源エネルギー庁
戸建住宅に設置する太陽光パネルの平均容量は3〜5kWhとされています。
そこから逆算すると、太陽光発電システムの初期費用が割り出せます。
3kWh | 78.3万円 |
4kWh | 104.4万円 |
5kWh | 130.5万円 |
ちなみに、太陽光発電パネル単体の費用は年々低下しています。
戸建住宅用として用いられる10~50kWのパネルの平均価格は1kWhあたり10.9万円となっており、2012年の約23万円と比較すると半額以下となっています。
戸建住宅に太陽光パネルを設置する7つのメリット
太陽光発電システムの普及が進んでいることや売電よりも自家発電・自家消費に関心が集まっていること、初期費用が年々低下していることなどがわかりました。
ここからは、戸建住宅に太陽光パネルを設置する7つのメリットについて解説します。
光熱費を削減できる
1つ目のメリットは光熱費を削減できることです。
総務省の「家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)家計の概要」によると、2人以上の世帯の年間電気代は平均で123,804円、月額で10,317円となっています。
出典:総務省「家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)家計の概要」
家計調査と同じ年の余剰売電比率をみると、平均で69.4%が売電されていることがわかります。
概ね、70%が売電、30%が自家消費と考えるとよいでしょう。
全国平均の年間太陽光発電量は1kWhあたり1,215kWhです。4kWの太陽光パネルを使用しているのであれば、年間で4,860kWhの電力が得られます。
2021年の買取価格は1kWhあたり19円です。
計算すると、年間売電収益は4,860kWh×0.7(売電割合)×19=64,638円と推計できます。
今度は、自家消費分について計算してみます。
2021年の家庭用電気料金は1kWhあたり28円です。
自家消費分は4,860×0.3(自家消費割合)ですので、1,458kWhとなります。
これに28円をかけると、40,824円となります。
出典:資源エネルギー庁
つまり、売電収入の64,638円と自家消費分の40,824円、合計105,462円分の光熱費が節約できます。
売電と自家消費で年間電気代の約85%を削減できるのは、かなり大きな削減効果だといえます。
再エネ賦課金を削減できる
2つ目のメリットは再エネ賦課金を削減できることです。
そもそも、再エネ賦課金とはFIT制度を支えるため、電気料金に上乗せされて徴収されている賦課金です。
賦課金は、電力会社から買う電気料金に上乗せされていることから、電気を使えば使うほ
ど、再エネ賦課金を支払わなければならないのです。
2012年度の再エネ賦課金は1kWhあたり0.22円に過ぎませんでした。
しかし、賦課金の金額は年々増加し、2022年度には1kWhあたり3.45円と2012年の15.6倍に達しました。
電力価格が高騰したため、2023年度は再エネ賦課金が1.40円まで低下しましたが、今後、増加しないという保証はありません。
太陽光パネルを設置し、電力の自家発電・自家消費を進めることで、電力会社から購入する電力を減らせるため、必然的に、再エネ賦課金の額を減らすことができます。
余剰電力を売却できる
3つ目のメリットは売電収入が得られることです。
買取価格が抑制されているため、以前と比べると収入は少ないですが、それでも、設置しているだけで得られる売電収入は、大きなメリットといえます。
電力の買取価格は毎年変更されますが、2023年度の10kWhの買取価格は1kWhあたり16円です。
全国平均の年間発電量が1kWhあたり1,215円であることから、半分を売電に回したとしても年間で1kWhあたり9,720円、4kWhであれば38,880円(月額3,240円)の売電収入が得られます。
災害時の停電対策になる
4つ目のメリットは災害時の停電対策として活用できることです。
災害時に困るのは、ライフラインが寸断されることです。
ここでいうライフラインとは、電気・水道・ガスなどの生活に必要なインフラ設備のことを意味します。
東日本大震災が発生した当初、津波による激しい被害が発生した仙台市などの太平洋沿岸地域だけではなく、東北地方のほぼ全域で停電が発生しました。
直接被害が比較的少なかった青森県西部や秋田県といった日本海側の地域でも全域停電しました。
出典:内閣府「3月11日の地震により東北電力で発生した広域停電の概要」
同資料によると、震災による停電は地震発生後3日で約80%が解消、8日で約94%が解消したとあります。
別の言い方をすれば、直接被災していない地域でも3日程度は停電する可能性があるということです。
全域停電といえば、2018年9月に起きた「胆振東部地震」による北海道全域停電(ブラックアウト)が記憶に新しいかもしれません。
道内のほとんどの地域で停電が解消したのは、地震発生の50時間後でした。
こうした停電は、日本各地のどこで発生してもおかしくありません。
地震以外でも、台風や大雨、大雪などで送電設備がダメージを受けると、広域停電が発生してしまう可能性があるからです。
このような状況下であっても、太陽光発電設備があれば冷蔵庫や通信機器などの電力を確保し続けることができます。太陽光パネルは停電対策の切り札といってもよいでしょう。
二酸化炭素(CO2)排出量の削減に貢献できる
5つ目のメリットはCO2排出量の削減に貢献できることです。
太陽光発電は、太陽光パネルに光を当てることで電気を生み出す「光電効果」を利用した発電方法です。
発電時にCO2を排出しないことから、カーボンフリーのエネルギー源として期待されています。
気候変動に関する研究成果をまとめる気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化は「疑う余地なく」人間活動によって生み出された温室効果ガスが原因であると述べています。
実際、2011年から2020年の世界平均気温は、1850〜1900年と比べ1.1℃上昇しました。
出典:環境省
太陽光パネルを設置し、CO2を排出せずに生み出された電力を使って生活することは、地球温暖化対策としてとても有効な手段だといえるでしょう。
補助金を活用できる
6つ目のメリットは補助金を活用できることです。
かつては、国による太陽光発電への補助金がありました。
2023年現在、国による補助金はありません。
そのかわり、地方自治体単位で補助金を交付していることがあります。
東京都は、新築住宅・既存住宅に太陽光発電システムを設置する際に、1kWあたり10〜15万円の補助金を交付しています。
たとえば、既存住宅に4kWの太陽光発電システムを設置すると、48万円の補助金が得られます。
参考:クールネット東京「令和5年度 家庭における太陽光発電導入促進事業<br>災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」
居住する地域によって、補助金の有無や補助金額が異なります。
交付を検討している人は、各自治体に問い合わせてみましょう。
断熱効果が得られる
7つ目のメリットは断熱効果が得られることです。
PVソーラーハウスが2015年7月31日に実施した実験のデータをみると、太陽光パネルがない場所とある場所では温度に大きな差がありました。
外気温が36.4℃だった13:00、パネルのない場所の温度は56.5℃でした。
外気温とパネルがない場所の温度差は約20℃に及びます。
これに対し、パネルの下は47.1℃でした。
パネルの有無による温度差は-9.4℃、外気温との差は+10.7℃です。
出典:環境省 COOL CHOICE「太陽光パネルを屋根に設置して快適に!発電のほか、暑さ対策も | みんなでおうち快適化チャレンジ 家族も地球も健康に | COOL CHOICE 未来のために、いま選ぼう。」
パネルの有無によって、屋根の温度が10℃近く違っていますので、当然、室内温度も同様に抑えられます。
そうなると、エアコンの設定温度を高めに設定できるかもしれません。
つまり、太陽光パネルを設置すると断熱効果と省電力効果を同時に得られるため、かなりお得になる可能性があるのです。
パネル設置の5つの注意点
太陽光パネルには数々のメリットがあるとわかりました。
しかし、注意しなければならない点もいくつかあります。
ここでは、パネル設置に関する5つの注意点をまとめます。
設置費用が高額である
1つ目の注意点は設置費用が高額であることです。
先ほど提示した初期費用の予算をもう一度見てみましょう。
3kWh | 78.3万円 |
4kWh | 104.4万円 |
5kWh | 130.5万円 |
太陽光発電設備は、決して安い買い物ではありません。
100万円単位の出費を伴う一大工事です。
もちろん、設置・販売するメーカーによって高い・安いはありますが、大金であることに違いはありません。
初期費用を少しでも抑えるのであれば、自治体が行っている補助金を活用するのが効果的です。
また、新築であればZEHなどの補助金を活用できる可能性もあるでしょう。
新築関連の補助金は、ハウスメーカーと相談して早めに活用する段取りを組んだ方がよいでしょう。
発電量が天候に左右される
2つ目の注意点は発電量が天候に左右されることです。
資源エネルギー庁が公表しているデータを見ると、晴天時には定格出力の60%程度の発電量が確保できるのに対し、曇天時は30〜40%、雨天時は10%前後まで発電量が落ち込んでしまいます。
出典:資源エネルギー庁『エネルギー白書2021』「第3節 一次エネルギーの動向」
また、太陽光パネルは高温になりすぎると発電効率が低下するという弱点も持っています。こうした条件があるため、太陽光発電の発電量は中々安定しないのです。
修理・メンテナンス・廃棄のコストがかかる
3つ目の注意点はコストです。
太陽光パネルはとても頑丈にできているため、めったに破損することがありません。
しかし、長年使用していたり、鳥のフンなどを除去しなかったりといったメンテナンスの不備があると、壊れてしまう可能性があります。
太陽光発電の修理費用はメーカーや修理する業者によって異なりますが、1枚あたり7万円前後というのが相場です。
パネル洗浄のコストや数年に一度の定期メンテナンス、設備が不調だった時のスポット点検などの経費を考えると、年間で数万円のメンテナンスコストを見込んでおくべきでしょう。
住宅用パネルを廃棄する際は、撤去費用と処理費用の2つの費用が必要です。
住宅用太陽光パネルは屋根に設置されていますので、取り外す際に費用が発生します。屋根の形状によっては、足場を組む必要があるため、足場代が必要となることもあります。
撤去した太陽光パネルは一般ゴミではなく、産業廃棄物として処理しなければなりません。産業廃棄物は廃棄物処理業者によるリサイクル処理などが義務付けられているため、その分の費用を負担しなければなりません。
撤去や廃棄に必要な費用は業者によって異なりますので、複数業者から相見積もりを取った方がよいでしょう。
反射光が近隣トラブルの原因となる
4つ目の注意点は反射光による近隣トラブルです。
太陽光パネルの設置位置・角度や周辺住宅の位置によっては、パネルの反射光がまぶしいという苦情が来る可能性があります。
国民生活センターが公表している「暮らしの法律Q&A」で、太陽光パネルの反射光についてのコラムが掲載されていました。
コラム内では、反射光の熱や光を巡って裁判になったことが取り上げられています。
参考:国民生活センター
太陽光パネルを設置する際は、季節や時間による反射光について十分シミュレーションし、隣家に影響を及ぼさないよう配慮する必要があるでしょう。
住宅の屋根に負担がかかる
5つ目の注意点は住宅の屋根に負担がかかることです。
太陽光パネルの重さは1kWあたり100キログラム程度です。
今回例として取り上げている4kWであれば、400kgの重さが屋根にかかります。
ここで問題となるのが住宅の築年数です。
築年数が古い住宅の屋根は経年劣化していますので、太陽光パネルの重さが大きな負担となるかもしれません。
また、パネル設置の施工工事が原因で雨漏りすることもあります。
築年数が経過した住宅に太陽光パネルを設置する際は、屋根の強度を確認してから設置を決めたほうがよいでしょう。
太陽光パネル設置のタイミング
太陽光パネルを設置するタイミングとして、新築時と後付けの2つが想定されます。
それぞれのメリットを見てみましょう。
新築時に設置するメリット・デメリット
新築時に設置するメリットは、太陽光発電を前提として住宅を設計できることです。
建設時に設置すれば、あとから工事をするのに比べて安い金額で太陽光パネルを設置できます。
パネルの設置費用を住宅ローンに組み込めるのも新築ならではのメリットでしょう。
デメリットは、設計に手間がかかったり、ハウスメーカーの提示したパネルメーカーのものしか選べない可能性があることです。
工事の総額が増えてしまうのも、大きなデメリットです。
後付けするメリット
後付けするメリットは、時間をかけて太陽光パネル設置業者を選択できる点です。
各メーカーの特徴を比較検討し、自分の主導でパネル設置を進めることができます。
しかし、金利が高くなる点や設置できる屋根が限られること、施工費用が高くなってしまうことなどがデメリットです。
太陽光パネルと蓄電池の組み合わせがベスト
太陽光発電と最も相性が良いのが蓄電池です。
蓄電池は文字通り、電気をためておくことができる機器ですが、これがあれば、昼間の余剰電力を夜間に使用することができます。
売電価格が高かったころは、電力を蓄電して自家消費するよりも電力会社に売却を得られました。
しかし、売電価格が低下した現在、売るよりも自家消費で電気代を下げたほうが家計負担を軽減できるかもしれません。
また、災害時などに夜間も電気を使いたいのであれば蓄電池は必須です。
経済面・安全面の双方から考えて、太陽光発電と蓄電池の組み合わせはかなり有利だといえます。
まとめ
今回は戸建住宅に太陽光パネルを設置する際のメリット・デメリットや太陽光発電の現状をまとめました。
かつては、売電で脚光を浴びてきた太陽光パネルですが、昨今は自家発電・自家消費のための物として注目されつつあります。
太陽光パネルのメリット・デメリットを比較検討し、自分のライフスタイルに合っているのであれば、設置を検討してもよいのではないでしょうか。